第七話
放課後になり、帰ろうと席を立つと、目の前にクラスメートの女子が数人立っていた。 「さん、ちょっと良い?」 「急いでるから、ごめんね」 俺はそう答えて、彼女らの脇を抜けた。 「待ちなさいよ!!」 抜けたつもりだったが、彼女らの方が一瞬速く、腕を掴まれた。 ブレザー越しなのに腕を掴んでいる彼女の爪が食い込むのがわかる。 (地味に痛ぇし・・・・どうせ跡部関連だろ・・・・) 彼女らを睨みつけるわけにはいかず、俺は教室内を見渡した。 残っている生徒たちが遠巻きに俺たちを見ているが、絶対真っ先に俺のところへ来ると思っていた跡部の姿は無かった。 「跡部様に助けを求めようたってそうはいかないんだから」 いや、跡部に助けを求める気なんてさらさらない。 むしろ、この落とし前はアイツにつけてもらおうかと思っただけだった。 俺が女子に絡まれるそもそもの原因が昼休みのアイツの言動にあるのだから。 「・・・・・別にそんなつもりはないけど?」 相手にするだけ無駄だと思うが、腕を離してもらわなければ俺は帰ることもできない。 「そういう生意気な態度がムカつくのよ!!」 グッと更に爪が食い込む。 「跡部様が貴方みたいな貧相な女に目をかけてるなんてのも許せない」 そりゃあ、俺は女じゃないから、全体的に骨張っているだろうよ。 無駄な脂肪なんてどこにもついていないし、まかり間違って胸なんか出てきたりした日には俺は舌噛んで死ぬぞ。 「・・・・・・氷帝って、育ちの良い人たちの集まりだって聞いてたけど・・・・・大したことないんだな。品性を疑う・・・・・」 つい口をついて出た言葉に、彼女たちは目を吊り上げた。 「何ですってぇ!?」 ハッと気がついたころには髪を掴まれていた。 カツラじゃなくて良かったと本気で思う。 こんなところで女装がばれたら、変態だの何だのと罵られてしまう。 「こういうところが品がないって言ってるんですけど?」 髪を掴む手と腕を掴む手を同時に振り払い、軽く手櫛で髪を整え、弾みで床に落ちたカバンを拾おうと屈んだ。 が、同時に背中を思い切り突き飛ばされた。 何とか踏みとどまって転ばずに済んだが、机に思い切りぶつかった。 「馬鹿馬鹿しい。付き合いきれない。今のアンタたちかなり醜いよ。そんな姿、憧れの“アトベサマ”に見せられるわけ?」 俺がそう言って冷ややかな目で見遣ると、彼女たちは唇を噛んで押し黙った。 「それじゃあ、私はこれで。ゴキゲンヨウ?」 ぶつかったせいで乱れた机を直し、俺は教室を後にした。 「君、スゴイね〜!!俺、今、君のこと助けに行こうと思ったのに、自分で解決しちゃったし〜」 入り口の脇に立っていた男子生徒がそう言って俺の前に立ちはだかった。 「芥川、くん・・・・だっけ?」 確か体育の授業のとき、体育館の隅で居眠りをしていた奴だ。 「あ。俺のこと知ってんの?うれし〜な〜。ねぇねぇ、君の名前は?教えて!」 「、だけど・・・・」 「ちゃんね!俺のことはジローって呼んで!!仲良くしようよ」 「はあ・・・・・?」 飛び跳ねんばかりの勢いではしゃぐ芥川に握手を求められ、何となくその手を握り返してしまった。 「これからヨロシクね!!」 「う、うん・・・・よろしく・・・」 無邪気な笑顔につられて頷いてしまった。 いまいち彼のノリについていけない。 「!!何帰ろうとしてんだ、あーん?部室に来いって言っただろ」 いつの間にか教室に戻ってきた跡部に見つかり、俺は芥川から手を離した。 「ヤベ・・・・・じゃ、私は帰るから。また明日ね、芥川くん」 俺は走って教室から離れた。 「もう!!芥川じゃなくてジローって呼んでってば!!また明日ねちゃん!!」 「待てって言ってんだろーが、!!!」 ジローの叫ぶ声が遠くなるのと同時に跡部の声も遠くなった。 第六話← →第八話 戻る +あとがき+ 当分は跡部との追いかけっこが続くかな。 ジロー出現率高くなるかと・・・。 |