第八話



入学式から一週間。
あの日の騒動以来、女子たちの視線が痛い。
しかし、ちょっかいをかけてくることはなくなった。
その代わり、煩いのが二人、付きまとってくるけれど。


「ねぇ、ちゃん!!テニス部遊びにおいでよ〜」


!!今日こそマネージャーになれ!!」


ジロー(仕方なく呼んでいる)と跡部が休み時間のたびに俺の元へやってきて騒いでいく。
あまりのしつこさに軽く登校拒否になりそうだ。


「行かないしならない。・・・・・ジローくん、テニス部じゃなかったら遊んでも良いよ」


今日も、朝っぱらからギャンギャン騒ぐ二人の声に頭痛がする。


「え!?ホント?じゃあ、テニス部じゃなくてE〜よ!!跡部、俺、今日部活休むね!!ちゃんどこ行きたい?」


「そんなの認めるか!!は今日こそテニス部のマネージャーになるんだ。で、俺様の傍にいろ」


今、聞き捨てならないセリフが聞こえた気がする。
いや、気のせいだろうと自分に言い聞かせた。


「今日は習い事の日だから、無理。・・・・・まぁ、ついてきても良いけど」


今日は昔通っていた空手道場へ行く日だったことを思い出した。
今は定期的に通っているわけではないが、月に一回、師範の友人の道場と親善試合のようなものを行っているため、それには参加するようにしていた。
自分の腕試しができるし、他校に通う友人とも会えるので、一石二鳥なのだ。


「習い事?何やってるの?」


「それは・・・・・秘密。ついてきたらわかるよ」


「へぇ〜楽しみ〜。面白いかなぁ?」


「さあね」


幼い子どものように喜ぶジローに自然と頬が緩む。


「俺様も行く」


跡部が憮然とした表情でそう言った。


「絶対嫌。第一、跡部くんは部長なんでしょう?ちゃんと任務は全うしないと・・・・上に立つ人間がそんなんじゃ、天下のテニス部も高が知れてるよね」


俺がそう言うと、跡部は低く唸ったきり黙りこんだ。
と、その時チャイムが鳴り、担任教師が教室へ入ってきた。


「今日は身体測定があるから、すぐに体操服に着替えて教室で待機するように」


担任はそう言って、点呼も取らずに出て行った。
マンモス校なだけあって一学年だけでもすごい人数がいる。
その人数全てを一日で測定しきるには、一分でも惜しいようだった。
クラスメートたちはざわつきながらも更衣室へ移動を始めた。
俺は体操服の袋を持って、人気のないトイレへ向かった。




* * * * * * * * * *




身体測定はクラスごとに回る順番が決まっていて、さらに男女別に分かれていた。
俺は居心地の悪さを感じながらも、女子の列に混じって測定場所へ向かった。


「次、さん」


測定場所によって担当教師が異なっているが、測定する順番は名簿順になっていた。
今は身長・体重・体脂肪率を測っている。
俺の前に測定を終えた女子は何やら複雑そうな顔をして戻ってきた。
友達らしき別の女子にコッソリと愚痴めいたことを言っていた。
大抵太っただの何だのというところだった。


「・・・・・体脂肪率がかなり低いみたいだけど、ちゃんと食べてるの?中学生のうちは無理なダイエットはしない方が良いわよ」


測定結果を見た女教師が心配そうに俺を見た。


「大丈夫です。ちゃんと食べてます。あまり太らない体質みたいで・・・・」


俺は女じゃないから女の平均値から見たら低いだろう。
太らない体質というのは本当のことで、普段の食事量は結構多い。
学校では不自然にならないよう普通の量を食べているけれど。


「そう?なら良いけど・・・・それじゃ、次の子に代わって」


「はい。ありがとうございました」


俺は教師に礼を言って、その場を後にした。
パーテーションに仕切られているとはいえ、声は筒抜けだったのか、後ろに並んでいた女子に白い目で見られた。
体脂肪率が低いというのがそんなに妬ましいのだろうか。
女子の感覚は良くわからない。


(外で待つか・・・・)


次の場所へ移動するまで、俺は廊下で待つことにした。
そこへ男子の集団が通りかかった。


「あれ?じゃん」


通りすがりに俺を呼んだのは、向日だった。


「あぁ・・・・えぇと、向日くん?」


「ひっでーな、忘れてたのか?」


「ううん・・・・・そうじゃないけど・・・」


思わず呼び捨てをしそうになったのを思いとどまっただけだった。
正直にそんなことを言うわけにはいかないので、曖昧に誤魔化した。


「ここ、A組の女子がいんのか?」


いつの間にか向日の隣に宍戸がいて、俺の背後のドアを示した。


「うん、覗いちゃダメだよ」


「バッカ、そんな激ダサなことしねぇよ!!」


宍戸は真っ赤になってうろたえた。


「そう?なら良いけど・・・・・・それより、行かなくて大丈夫なの?他の人たち先に行っちゃったみたいだけど」


「え?あ。ヤベ・・・・じゃあ、俺ら行くわ。またな」


向日と宍戸は慌てて他の人たちが行った方へ走っていった。


「騒々しい奴ら・・・・」


二人の背中を見送り、俺は静かに息を吐いた。



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+あとがき+

身体測定メインのつもりでしたが、半分になっちゃいました。