第九話



一日がかりの身体測定が終わり、俺とジローは一緒に下校した。
跡部は結局、俺たちについては来なかった。
今朝の俺の嫌味が効いたのか、真面目に部活に向かったようだった。


「着替えたいから、家に寄って良い?」


バスに乗り込みながらジローにたずねると、ジローは目をキラキラと輝かせた。


ちゃん家に行くの!?良いに決まってるじゃん!!」


「家に来ても何もないけどね・・・・」


今日は父さんは家にいただろうか。
家にいたら面倒だな・・・そんなことを思いながら、バスが最寄のバス停に着くのを待った。


「ここがちゃん家?」


バスを降りて徒歩五分ほどで俺の家に到着した。


「うん。普通の家でしょ」


どこにでもあるようなごく普通の一軒家だ。
俺は玄関のドアに鍵を差込み、回した。
鍵が開くと、ドアを開けてジローを家の中に招き入れた。


「ただいま」


一応家の中に声をかけるが、反応はなかった。
どうやら父さんは留守のようだった。


「廊下の奥の居間で待ってて。着替えてくるから」


「わかった」


ジローが間違うことなく居間のドアを開けたのを確認して、階段を昇った。
自室に入り、ブレザーを脱いで、長袖のTシャツとジーンズに着替えた。
クローゼットから空手着の入った袋を出し、部屋を後にする。


「お待たせ、ジローくん」


居間のドアを開けると、ジローはソファではなくテレビの前に屈んでいた。


「ジローくん?」


具合でも悪くなったのかと心配になって近寄ると、そうじゃないことに気がついた。


(しまった・・・・・忘れてた)


ジローが屈み込んで見ていたのは、テレビ台に飾られていた写真だった。


ちゃんって・・・・男の子だったの?」


そう言って、ジローが手に取った写真は、小学校の卒業式に撮ったものだった。
当然、女の格好なんてしてなくて、普通にどこにでもいる少年の格好だった。


「・・・・・・・騙しててごめんな。俺はれっきとした男だ」


「何で女の子の格好してるの?」


「それは父さんのせい。うちの父さん、死んだ母さんのことが大好きで、俺が母さんにそっくりだからって、中学の入学手続き書類を女として提出したんだ」


戸籍を見れば男だってバレバレなのだが、学校側は何の疑いもなく俺を女として迎え入れた。
父さんが言っていた友人とやらが、氷帝のお偉いさんなのかもしれない。


「そうなんだ・・・・」


「ジローにばれちゃったら、俺はもうあの学校には通えない。別の学校に転校するしかねぇな・・・」


「え!?それは嫌だよ!!ちゃんがいなくなっちゃうくらいだったら、俺、このこと誰にも言わないから!!」


「・・・・え?」


「俺、ちゃんが女の子じゃなくても好きだよ。だから転校なんかしないでよ。俺、ちゃんと、色んなこと話したり、いっぱい遊んだりしたい!!」


「ジロー・・・・・・サンキュ。父さんが飽きるまで、この大掛かりな嘘に付き合ってくれるか?共犯者になってくれ」


「うん!!」


ジローが大きく頷き、俺は気色悪がられなかったことに安堵した。


「とりあえず、出かけるぞ」


俺は手で自分の髪をかき乱し、普段の髪型に戻した。



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+あとがき+

バラすの早すぎたでしょうか?
三年生まで続けられるかなぁ・・・(汗)
でもジローはずっと黙っていてくれそうだから、大丈夫かな。