第十四話
四月の終わり、氷帝学園は開校記念日で休みになった。 数日後からゴールデンウィークが始まるとはいえ、普段とは違う日に休みがあるのは嬉しいと思う。 平日ということもあって、学校から昼間の外出は禁じられたが、誰もそんなものを守るはずはないだろうと、俺は一人で遊びに行くことにした。 もちろん女装なんかせず、普通に男としてだ。 今日の目的は、新しいゲームソフトの購入だ。 先日、親父から小遣いをたんまりとせしめたばかりのため、懐はホクホクなのだ。 以前から欲しかった物や最近発売された物など、たくさん買えそうだから楽しみだった。 行きつけのゲーム専門店へ行き、所持金の範囲内のものを丹念に物色した。 「・・・・・・こっちか?」 いくつかカゴに入れ、レジへ向かうと、レジの近くから聞き慣れた声が聞こえた。 「・・・・・・・・・やっぱ、こっちじゃねぇか?」 コッソリ見てみると、向日と宍戸が、人気ゲームソフトをランキング順に陳列している棚の前で、真剣な表情で話し合っていた。 それは、昔からある、小さな生き物を育てながら旅をするゲームだった。 それが最新ゲーム機用にリニューアルされ、発売されていた。 たしか、色によって出てくる生き物が違ったはず。 俺は古い方をやり込んだため、新しい方には興味が無かった。 (アイツら・・・・・何で家にいないんだよ) 自分のことは棚に上げ、心の中で悪態をついた。 彼等に気づかれないように会計を済ませると、さっさと店を後にした。 これ以上はどこにも寄らずに早く帰ろうと決め、俺はバス停に向かった。 その途中、見慣れた二人組を見つけ、俺は焦った。 「ヤバイ・・・・・」 前方から跡部と滝が歩いてくるのだ。 俺は咄嗟に近くの看板の陰に隠れた。 跡部たちが通り過ぎたのを確認し、バス停まで走った。 丁度到着したバスに飛び乗ると、車内はかなり混雑していて、どこにも掴まれなかった。 近くの人を支えにするわけにはいかず、激しい揺れの中、足を踏ん張って必死で堪えた。 ――――キキッ そのとき、バスが急停車し、今までで一番大きく揺れた。 「うわっ」 俺は思い切りよろけ、後ろにひっくり返りそうになった。 人波の中に倒れ込むことを覚悟し、ぎゅっと目をつむったが、体は斜めに傾いだままで、予想した衝撃は無かった。 「大丈夫か?」 頭上から聞こえた声の主は忍足だった。 どうやら忍足が身を呈して支えてくれたようだった。 「あ・・・・・うん・・・・ありがとう・・・」 (・・・・・マズイ・・・・) 忍足は俺が女装していることを知らない。 気づかれてしまったらヤバイと思い、俺は慌てて顔を伏せた。 「・・・・・・危ないから俺に掴まっとってもええよ?」 「え?あ、ありがとう・・・・・」 忍足に言われ、俺は忍足の腕を掴ませてもらった。 そんなに体型に差は無いのに、忍足は足腰がしっかりしているようで、俺の体重を支えながらも多少の揺れではグラつくことが無かった。 流石はあれだけのテニスをするだけある。 『次は〜』 バスのアナウンスが俺が降りるバス停の名前を告げた。 「あ、俺ここで降りるから・・・・・」 降車ボタンを押そうと手を伸ばすと、忍足が押してくれた。 「・・・・・ありがとう」 「どういたしまして。なぁ、名前教えてや」 「え!?あ・・・・・アキラ・・・・神尾、アキラ。・・・・・お前は?」 名前を問われ、咄嗟に隣に住む一歳下の幼なじみの名前を答えてしまった。 「・・・・・忍足や。忍足侑士。よろしくな神尾くん」 「う、うん・・・・よろしく。それじゃ」 バスがバス停に着き、俺は逃げるように駆け降りた。 俺はバスが発車するのをぼんやりと眺めた。 窓越しに忍足と目が合ったような気がした。 「・・・・嘘ついてごめん、忍足・・・・」 俺がだと気づかれていないことを祈りながら家路についた。 第十三話← →第十五話 戻る +あとがき+ 神尾と幼馴染にしちゃいました。 ですが、神尾との絡みはもう少し先になるかと思います。 |