第十五話



「眠ぃ・・・・」


昨日購入したゲームを徹夜でやり通したため、かなり眠気が強い。
ゲームをやり続けていれば、眠気なんて吹き飛ぶのだが、今は学校へ向かっているところだった。
氷帝学園へ向かうバスの中、思い出すのはやはり昨日の忍足だ。
このバスは昨日乗ったバスとは路線が違うため、忍足と会うことはないだろう。
だが、昨日忍足についた嘘が今もまだ、胸の奥で罪悪感として蟠っている。
何故、罪悪感を抱いているのかはわからない。
跡部や宍戸たちに自分が本当は男であることを隠していることに関してはあまり気にならないのに。
もちろん、女装は気に入らないのだが・・・・・。


『氷帝学園前〜』


バスが氷帝に着き、バスに乗っていた氷帝の生徒たちがバスを降りていく。
俺も慌ててバスを降りた。


ちゃん、おはよ〜!!」


校門の方からジローが笑顔で手を振っていた。


「おはよ。朝練は?」


「もう終わったよ。ちゃんが来るの待ってたんだ」


「そう・・・・」


「あれ?ちゃん、顔色悪いよ?どうしたの?」


「ただの寝不足だから、心配いらない」


「・・・・そうなの?」


「ゲームで徹夜したんだ。跡部たちには内緒な」


「わかった。早く教室行こー」


跡部たちには内緒、という言葉が気に入ったのか、ジローは満面の笑顔になった。
二人で昇降口へ向かうと、丁度、靴を履き替えている忍足と遭遇した。


「何やジロー。いそいそと部室を出てったかと思ったら、さんを迎えに行っとったんか?」


「うん。俺とちゃんは仲良しだもん」


「・・・・・ふーん。さん、おはよう」


自分から名乗った覚えは無いが、忍足は俺の名前を知っていた。
おそらく跡部が教えたのだろう。
先日、跡部が俺にマネージャーになれと言いに来たときに忍足もいたことを思い出した。


「・・・・・おはよう」


昨日のことを気づかれるとマズイと思い、さりげなく俯いた。


「そういや、自己紹介しとらんかったな。俺は忍足侑士いうんや。よろしく」


「・・・・よろしく」


「・・・・・この前、跡部に食ってかかっとったときとは違って大人しいんやな」


忍足が嘆息混じりに言った。


「あ、あれは跡部くんがしつこいから、つい・・・・」


反論する勢いで顔を上げたら、忍足と真正面から目が合った。


(しまった、気づかれる・・・)


咄嗟に顔を背けたが、もう手遅れだろうと思った。
何か言われる前に自分から打ち明けるべきだろうと思い、もう一度顔を上げたが、言葉が出てこない。
だが、俺の危惧に反して、忍足は特に何も言わなかった。


(気づいていないのか?)


気づかれていないのなら、それで良い。
早とちりで恥をかくところだった。


ちゃん?早く教室行かないとチャイム鳴っちゃうよ」


ジローに言われ、俺は慌てて上靴に履き替えた。


「じゃあ、忍足バイバイ」


「ああ。さんもまたな」


「あ、うん・・・・バイバイ」


笑顔で手を振る忍足に、控えめに手を振り返すと、ジローに手を掴まれた。


「早く行こ」


いつかのように手を繋いだまま教室へ向かう。
ふと忍足の方を見ると、忍足は無表情で俺達を見ていた。


(・・・・・・?)


不思議に思ったが、すぐに姿が見えなくなり、尋ねるチャンスさえ無かった。



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+あとがき+

関西弁は難しい・・・・。