第十六話
「!今日こそテニス部に入れ」 ゴールデンウィークが明け、教室へ行くと、例によって例の如く跡部がやって来た。 (また来た・・・・・しつこいな・・・・・) 助けを求めようとジローを見るが、この件に関して、ジローは跡部の味方になっているため、ただニコニコと事の成り行きを見守っているだけだった。 そして、跡部がこうして言い寄って来ることによって、確実に敵が増えていく。つまり、女子にどんどん嫌われていくのだ。 だが、女装しているからといって、女子と仲良しごっこをするつもりは無いため、嫌われるのは一向に構わない。 問題なのは、女子の虐めが陰湿だということだ。 例えば、体育の時、着替えようと体操服の袋を開けたらビリビリに引き裂かれていたり、教科書が無くなったと思ったら、水浸しでごみ箱に捨ててあったり・・・・・・思い出すのもウンザリするようなことばかりだった。 入学直後の一悶着の後、しばらくの間は何も無かったのだが、やっぱり跡部が俺にばかり話し掛けるのが気に入らないらしかった。 そして、跡部に気づかれたくないからか、あまり人目につくようなところでは事を起こしてはこないのだが、クラス中の女子が俺を完全に無視してるから、余程鈍い奴じゃない限りは気づくだろう。 今のところ跡部は何も言ってこない。 周りが見えているのかいないのか、跡部はいつもテニス部への勧誘の話しかしてこなかった。 「、聞いているのか?」 「聞いてない。テニス部には入りたくない」 自分の席へ向かいながら答え、椅子に座って鞄の中身を机に移すと、指先にピリッとした鋭い痛みを感じた。 (・・・・何か仕掛けられてたのか?) こういった陰険なことをする奴らを庇う義理は無いが、ややこしくなると面倒なため、俺は机の中から手を出さなかった。 「わかった。なら、俺様と勝負しろ」 「・・・・・・・は?」 俺がまったく聞いていないのに、話は先に進んでいたらしい。 「二週間後の中間考査でが俺様に勝ったら諦めてやる」 「・・・・・・・何言ってるの?首席入学した人に勝てるわけがないでしょう?」 「負けを認めるのなら今すぐテニス部に入れ」 どういう理屈だそれは。 明らかに俺が不利なのはわかりきっているじゃないか。 「・・・・・・・わかった。勝負する」 だが、戦う前から負けを認めるわけにはいかない。 しかし、俺は頭にはあまり自信が無い。 これが体力勝負なら勝つ自信があるのに。 「そうか。ククッ・・・・・楽しみだな」 跡部は笑いながら離れていった。 「・・・・・・・はあ・・・・・」 跡部の視線がこちらに向かないことを確認し、そっと手を出した。 指先に一センチほどの小さな傷が出来ていて、うっすらと血が滲んでいた。 「・・・・・・・・ジロー。頭良い奴知らないか?」 隣に立っているジローに小さな声で尋ねた。 ジローは俺の怪我に気づいていないようで、相変わらずニコニコ笑っていた。 「んー・・・・・・忍足か滝かな・・・・・」 「わかった」 「どうするの?」 「勉強を教えてもらう。忍足は何組?」 滝はB組だが、忍足が何組に所属しているのか知らない。 「ええっと・・・・・・忘れちゃった」 エヘヘと笑うジロー。 「・・・・・そうか」 次の休み時間に探すしかないようだ。 とりあえず、体育の授業で会ったことが無いため、B組ではないことはわかるから、探すならC組以降だ。 (一応、滝に聞いてみるか・・・・・) 滝なら忍足のクラスを知っているかもしれない。 第十五話← →第十七話 戻る +あとがき+ 中間考査。 長くなりそうです。 |