第二十三話



放課後、苛立ちを抑えきれないまま、テニスコートへ向かった。
体操服などの用意はないため、制服でテニス部員の前に立つ。
部員たちに奇異の眼差しを向けられ、居心地が悪い。


「今日から正レギュラー専用のマネージャーとなっただ」


跡部が俺をそう紹介し、全員の顔を見渡した。


「妙なちょっかいをかける奴は金輪際テニス部に参加することを禁ずる」


最後にそう言って締めくくると、部員たちが少しざわめいた。


「各自練習に入れ。・・・・はこっちだ」


跡部はパチンと指を鳴らし、部員たちを静まらせ、そう告げた。
俺は言われるがまま跡部についていくと、部室に着いた。


「ここが正レギュラー専用の部室だ。ミーティングもここで行うから、必ず参加しろ」


「・・・・・・わかった」


「備品類はこの隣の倉庫にあるから、在庫のチェックと補充は忘れるなよ。急を要する場合は適当な部員を捕まえて買いに行かせるんだ。お前はとにかく俺様の近くにいろ」


「・・・・・・うん」


跡部の近くにいなければならない理由がわからないが、とりあえず肯定しておけば問題はないだろうと思い、頷いた。
跡部はそんな俺を怪訝そうに見ているが、特に何も言わずスタスタと部室の奥へと歩いていった。
どうやらそこはロッカールームらしい。
女としてここにいる俺は入るわけにいかず、ミーティングルームの椅子に腰掛けた。
時間が経つにつれ、苛立ちは薄くなり、冷静になって見てみると、ここは部室とは思えないほど豪奢な造りをしていることに気がついた。
特に目の前にあるスクリーンのでかさやドア脇の天井付近に設置されている立派なプロジェクターに目を見張る。
跡部の入学を機に学校中のあちこちが改装されていたが、ここもその中の一つのようだった。


「無駄に金かかりすぎ・・・・・・」


中流階級の一般家庭で育った俺としては無駄遣いとしか思えない。


「はあ・・・・・」


中学に上がってから、俺の生活はどんどんかき乱されていく。
そもそも、親父が俺に女装させたところから何かが狂い始めた。
全ての元凶は親父だ・・・・・そう思わなければやっていけない。
いずれこの女装にも無理が出てくるだろう。
そのとき、周りはどう反応するのか。
軽蔑されようが罵られようが構わないが、せめて嫌わないでほしい。
不本意な女装とはいえ、覚悟を決めたのは自分だ。
新しい制服や書類の手続きを親父に強制することもできたのに、俺はしなかった。
その理由はわからないけれど、自己責任だと言われればその通りだと思う。
自分でも馬鹿なことをしている自覚はあるし、しばらくは親父のお遊びに付き合ってやっても良いかと思えるほどには孝行する気もある。
どれくらいの間続けられるかはわからないが、自分の限界への挑戦だと思うことにした。


「・・・・・頑張ろう」


俺は小さく決意した。



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独白というか何と言うか・・・・。