第二十五話
氷帝学園から徒歩で十分くらいのところにある薬局で目当てのものを買い終えて外へ出た。 そういえば携帯電話を持ってくるのを忘れたな、なんてぼんやりと思う。 「カーノジョ♪」 突如背後から声をかけられ、俺は反射的に飛び退った。 「おお!反射神経良いね」 振り返った先にいたのは同い年くらいのオレンジ色の髪をした男だった。 白い学ランを着ていることから、この辺りの中学生ではないとわかる。 「・・・・・何か用ですか?」 「んー?可愛いなぁと思って声かけただけなんだけど、ヒマだったら俺と遊びに行かない?」 ニヤニヤと鼻の下を伸ばして笑う顔に虫唾が走る。 「忙しいので無理です。さようなら」 部活の終了時間が近かったこともあってジャージから制服に着替えていたのが仇になった。 いっそのこと、男だとバラして逃げてやろうかと思ったが、どこからどう伝わるかわからないため言えない。 苛立ちを抑えて淡々と告げ、俺は氷帝学園へ向かった。 「ちょ、ちょっと待ってよ!!そんなあっさり断んないでよ」 オレンジ頭の男は慌てたように俺の後を追ってくる。 俺は完全に無視をすることにして、黙々と歩いた。 どこまでついて来る気なのだろう・・・・。 氷帝まで来られたら厄介だと思うけれど、下手に道を変えると俺が氷帝にたどり着けなくなってしまうため、俺はそのまま氷帝へ向かう道を歩いた。 氷帝に着けばたぶん警備員が人の出入りを見張っているはずだ。 氷帝以外の生徒が氷帝の生徒をつけていれば出てきてくれるだろう。 そう信じて、俺は氷帝に戻ることを選んだ。 「ねぇねぇ!待ってってば!!」 困惑したような、それでいてどこか楽しげな声が後ろから聞こえる。 「・・・・・・ん?」 そのとき、物音が聞こえたような気がしてふと路地に目を向けると、そこでは喧嘩が繰り広げられていた。 多勢に無勢というのか、一人の中学生くらいの男を五〜六人の高校生くらいの男が囲んでいた。 とはいえ、やられているのは高校生の方で、よく見れば囲んでいる高校生の足元に何人か倒れている。 「うわっ、喧嘩だ・・・・・・コワー」 いつの間に隣に並んでいたのか、ナンパ男が路地の光景を見て呟いた。 「てか、あれ、うちのガッコの奴じゃん」 ナンパ男が中学生の方を見てそう言い、言われて見ればナンパ男と同じ白い学ランに身を包んでいた。 「「あっ!!!」」 中学生が後ろの高校生を殴るため振り返ったとき、中学生の顔が見え、俺とナンパ男が同時に声を上げた。 「亜久津!?」 「仁っ!!!」 再び同時に声を上げ、ハタとお互い顔を見合わせた。 「君、亜久津のこと知ってんの?」 そして、ナンパ男が意外そうに言った。 「えーっと、幼馴染ってところかな・・・・」 去年まで通っていた空手道場で知り合った亜久津仁。 いろいろトラブルを起こしていて、いつの間にか来なくなった奴だ。 みんなが敬遠する中、俺は普通に会話を交わすくらいには仲良くなっていた。 初対面の奴に詳しく話してやる義理もないため、一言“幼馴染”と答えることにした。 「へぇ〜」 ナンパ男が感心したように何度も頷く間、仁の形勢はどんどん不利になっていった。 「・・・・・ったく・・・・・」 どうしたものかと思案しつつ、仁の方へ歩いていく。 「ちょ、君!!危ないよ!?」 ナンパ男が慌てて俺の腕を掴んだ。 「放して。平気だから」 俺はナンパ男の手を解き、ゆっくりと足を進めた。 第二十四話← →第二十六話 戻る +あとがき+ 続いちゃいます。 |