第二十九話
「ちゃ〜ん!!一緒に帰ろ〜」 部活が終わり、部員たちがそれぞれ帰り支度をして帰っていくのを見届け、俺も荷物を持って部室棟を後にした。 校門に向かうと、ジローと向日と宍戸が待っていた。 「あー、ごめん。今日は寄るところがあって……」 「そっか〜残念」 「ホントごめんね。また明日」 俺は三人に手を振って校門を抜けた。 そこへ最近よく見かける黒塗りの車が停まって、後部座席の窓が開いた。 「!!俺様が送っていってやるから行き先を言え」 案の定、窓から顔を出したのは跡部だったのだが、どこで俺たちの会話を聞いていたのだろうか。 「いらない。じゃあね」 俺は間髪いれずに断って、車の横を抜けた。 「おい!!!!!」 背後では跡部がまだ騒いでいるが、聞こえないフリをした。 氷帝学園から五分ほど歩いて、いつもと違う路線のバス停から他の氷帝生と共にバスに乗り込んだ。 「あれ?さん?」 声を掛けられて見てみると、そこには忍足がいた。 「忍足くん……」 中間テスト前のあの日以来、ほとんど会話をしていなかったためドギマギしてしまう。 しかも、忍足がバス停にいたことさえ気づかなかった。 「何や、さんがこのバス乗っとるの初めて見たわ」 忍足は気にした様子もなく普通に話しかけてきた。 あの日、引かれてると思っていたが気のせいだったのかもしれない、と思い至り、少しだけホッとした。 「……忍足くんって、このバスなの?」 「そうや。途中で電車に乗り換えなあかんのやけどな」 「そうなんだ……」 そういえば、四月の開校記念日に会ったとき、このバスが通る路線と交差する別の路線バスの中だった。 「さんはどないしたん?いつも向こうのバス停からバス乗っとるやろ?」 忍足はそう言って氷帝学園の方を示した。 確かに俺は氷帝のすぐ前のバス停からバスに乗るが、忍足は何でそんなことまで知っているのだろう。 「前にバス乗るのを見たことがあるんや。丁度、跡部から逃げとるところやったかな……」 「あー……」 少し前までは跡部から逃げるためにバス停に直行していた。 それを見られていたということか。 何だか気恥ずかしい。 「今日は用事があって……」 「そうなんや。もう暗くなるし気ぃつけてな」 「……ありがとう」 どうせ暴漢なんかは返り討ちにしてやるが、以前不良を蹴散らしたときに引かれたことを思い出して言わないことにした。 「あ。ほな、俺はここで降りるわ。また明日、朝練でな」 「うん、また明日ね」 バスが停車し、降車口の扉が開くと忍足は降りていった。 そして、バスが発車するまで俺の方を見て手を振っていた。 バス停を離れ、忍足の姿が見えなくなると、俺は肩の力を抜いた。 「はあ……」 小さくため息をつき、ふと気付くと氷帝の女子やどっかの学校の女子などが俺をじっと見ていた。 きっと忍足のファンだろう。 学校でも外でもこんな感じでいい加減ウンザリしてくる。 特に人気の高い跡部や忍足には過激なファンもいるようで、彼らの姿が見えなくなると途端に嫌がらせ攻撃が始まるのだ。 今この場にいる女共の中には過激な一派はいないようで、嫉妬の眼差しが向けられる程度だった。 (鬱陶しいな……) 舌打ちをしてしまいたい衝動に駆られ、ギュッと唇を固く結んだ。 氷帝生がたくさん乗っているこのバスの中で本性を出してしまったら、どう広まるかわからない。 俺は早く目的地に着くことを祈りながら、窓の外を眺めた。 第二十八話← →第三十話 戻る +あとがき+ 関西弁って本当に難しい……。 間違ってたらコッソリ教えてください。 そういや、忍足って電車通学だっけ…(汗) |