第三十一話
仁の働きのおかげで、あっという間に食卓に夕飯が並ぶ。 先ほど、仁が買ってきた焼きたてのフランスパンも食卓に並んでいた。 「さ、食べましょ。いただきます」 「「いただきます」」 俺たちは食卓に着くと、揃って料理に手をつけた。 「うん、おいしい。やっぱ、優紀ちゃんは料理上手だね」 「ふふ。ありがとう」 優紀ちゃんが嬉しそうに笑うのを、仁がこっそり見ていた。 何だかんだ言って仁は優紀ちゃんが大好きだ。 悪態をつきながらも優紀ちゃんには逆らわないし、どんなに遅くなっても毎日必ず帰宅する。 これでも一応、仁は母親思いなのだ。 たった一人の家族を大切に思う気持ちは俺にもわかるのでからかうようなことはしないし、仁も俺をそのことでからかうことは無い。 そう考えると、俺は多分、仁とは気が合うのだろう。 親友といっても差し支えないかもしれない。 仁が俺のことをどう思っているのかはよくわからないけれど。 「ちゃんは氷帝学園なのよね?部活は何をやってるの?」 「……強制的にテニス部のマネージャーやらされてる」 「強制的に?」 「テニス部の奴と中間テストで勝負して負けちゃって……」 「えぇ?じゃあ、罰ゲームみたいなもの?」 「うーん……何だろ、賭け……かな」 「そっかー。ちゃんはそれが不本意なのね」 「うん。ホントは帰宅部のつもりだったのに……」 「ふふ。でも、ちゃんと頑張ってるのね。偉い偉い」 優紀ちゃんがテーブル越しに俺の頭を撫でた。 母親の手って感じで温かい。 母さんも生きていた頃はよくこうして俺の頭を撫でてくれたなぁと思い出す。 「ゴチャゴチャやってねぇで早く食えよ」 仁が不機嫌そうに言う。 「何だよ仁。俺が優紀ちゃんに撫でられてヤキモチやいてんのか?」 「バッ……ちげぇよ!!!」 仁は顔を真っ赤にして反論した。 それじゃあ説得力が無いだろうに……。 「ふふふ。仲良しね、二人とも」 優紀ちゃんは嬉しそうに笑った。 「うるせぇババア!!仲良くなんかねぇよ」 「またババアって言ったわね!?もう仁にはデザートのケーキあげないんだから」 優紀ちゃんの言葉に仁がグッと顎を引いた。 おそらく好物のモンブランが買ってあるのだろう。 「ちゃんにはあげるから心配しないでね」 「ホント?やった〜」 俺は甘い物が嫌いだが、優紀ちゃんが買ってくるケーキは甘さ控えめでとてもおいしい。 チラッと仁を見ると、苦虫を噛み潰したようなバツの悪そうな顔をしている。 強情張らずに素直に謝れば良いのに、と思ったが言わないでおく。 「チッ」 仁は舌打ちをして食事を再開した。 優紀ちゃんがその様子を楽しげに見ている。 きっと優紀ちゃんは仁にもケーキを出すだろう。 仁もそのことがわかっているので、あえて何も言わない。 俺は二人に気付かれないよう小さく笑ってから食事を再開した。 第三十話← →第三十二話 戻る +あとがき+ 思ったより長くなってしまった…。 |