第三十五話
七月に入り、期末考査も終わると、夏休みまであとわずかとなった。 「・・・・・・明日?」 部活を終え、俺はさっさと帰宅しようと校門に向かって歩いていた。 そこへジローと向日がやって来て、明日は暇かと尋ねてきた。 「空いてるけど・・・・・・」 明日の土曜日は部活が無いため、俺は家でのんびりしようと思っていた。 「遊園地行かねぇ?」 「遊園地?」 「そう!!こないだ七夕だったでしょ?そのとき、うちの商店街でくじ引きやってたんだけど、遊園地の招待券が余ってて、それを俺たちが貰ったんだ!!」 ジローがいつにないハイテンションでまくしたてる。 「一枚で四人まで入れるやつでさ、二枚あるから侑士、亮、滝と行く約束なんだけど、お前も行こうぜ」 向日が言う。 「ふぅん・・・・・・良いよ」 跡部は頭数に入れてもらえなかったのか、名前があがらなかったため、俺は了承した。 「やっりぃ!!じゃあ、明日、九時に駅前集合な」 向日とジローがハイタッチをして喜ぶ。 「わかった。じゃあ、明日ね」 俺は二人に手を振ると、丁度来たバスに乗り込んだ。 * * * * * * * * * * 翌朝、着ていく服に悩んでいたら、どこからともなく父さんが現れ、どこで手に入れたのか女物のワンピースや帽子、鞄など一揃えで持ってきた。 「・・・・・・・・・・・・何それ?」 「何って、お前が今日着る服」 「・・・・・・誰が選んだんだ?」 「俺と榊」 「いつ?」 「昨日」 確かに昨日、俺が帰宅して、テニス部の奴らと遊園地に行くことになったと話した途端、慌てたように家を飛び出していって、しばらく帰ってこなかった。 ようやく帰って来たと思ったら、何やら大きな箱をいくつも抱えていて、そのまま仕事部屋にこもってしまったため、箱の中身が何なのか、確認できなかった。 「着ていく服が無かったら可哀想だと思ってな」 「はぁ?」 百歩譲って、着ていく服を用意してもらったことには感謝しても良い。 だが、問題なのはその服自体にある。 「こんなクソ短いワンピースなんか誰が着るか!!!」 父さんが買ってきた服はピンクのチェック柄のワンピ−スだった。 せめてクロップドパンツとかカーゴパンツとかのパンツ系にしてくれれば良いものを、あろうことか父さんはワンピースを選んできた。 しかも丈がかなり短い。 股下十五センチあるかどうかといったところだろう。 「まあまあ、そう言うと思って、ほら。レギンスも買ってきたから」 父さんはそう言って、膝下十センチくらいの丈の黒いタイツのような物を取り出した。 裾には同色のレースがあしらってある。 「そういう問題じゃね・・・・・・っ!?」 まだまだ言いたいことは山ほどあるというのに、いつかの入学式の日のように父さんは強引に俺に服を着替えさせた。 そして、両サイドの髪を真珠みたいな丸い石が並んでいるヘアピンで留められる。 その頃にはもう俺はどうでもよくなっていて、抵抗すらしなかった。 「良いねぇ、やっぱはママにそっくりだなぁ」 父さんは俺の頭からつま先まで眺めてうっとりと呟いた。 「はい、このカーディガン着て、鞄はこれ。財布には小遣い入れておいたぞ。最後に帽子、と・・・・・・完成!」 白いレース地で七分袖のカーディガンを着せられた上から、黒地にピンクのリボンのついたポシェットを肩にかけ、頭に白いキャスケットもかぶせられた。 「は・・・・・・」 目の前にある姿見用の鏡に映った自分を見て思わず感嘆のため息を漏らした。 どこからどう見ても可憐な少女にしか見えない。 自分だと思わなければ、多分可愛いと思えるだろう。 「ていうか、何でピンクなんだ?」 俺はピンクが大嫌いだと父さんも知っているはずだ。 「ママが好きな色だから」 「・・・・・・あっそ・・・・・・」 聞かなければ良かったと思う。 俺は鞄の中身を確認し、携帯電話を鞄に突っ込んだ。 「遅くなるときは連絡しなさい。迎えに行くから」 玄関に向かうと、父さんも後をついてきて、そう言った。 「わかってる」 おざなりに返事しながら玄関に用意されたピンク色のサンダルを履く。 そこで、いつの間にか足首に銀色のアンクレットがつけられていたことに気付く。 俺はうんざりしながら家を出た。 せめて近所の知り合いに会いませんようにと祈りながら、待ち合わせの駅に向かった。 第三十四話← →第三十六話 戻る +あとがき+ 主人公の服装は、某SNSサイトのアバターアイテムを組み合わせた物です。 うまく説明できていませんが・・・・・・。 ちなみに、主人公は別の日にパンツ系の服も父親に買わせます(笑) |