第三十七話
「え、何これ!?」 人数分のジュースを買って戻って来た忍足と滝が目を丸くしている。 そりゃそうだろう、大きなパラソル付きのテーブルセットと豪華なランチが突然現れたのだから。 「こんなんあるんやったら飲みモン買う必要なかったやん」 忍足はブツブツと文句を言いながら、俺の正面の空いている席に着いた。 「はい、さん」 忍足は俺の前にレモンスカッシュの入った紙コップを置いた。 「ありがとう」 「宍戸とジローと岳人がコーラやったな。で、跡部がアイスコーヒー」 忍足は順番に紙コップを置いていく。 「なあ、跡部。もう全員揃ったから食べて良いんだよな!?」 向日が嬉々として言う。 「ああ、そうだな」 「よし、じゃあ、いっただっきまーす!!」 向日とジローがガツガツと勢いよく食べ始める。 「どうしたの、さん?」 斜め前に座っている滝が不思議そうに俺を見た。 「あ、ううん。何でもない。いただきます」 見たこともないくらい豪勢な料理の数々にうんざりする。 (俺、キャビアとか苦手なんだけど・・・・・・) 正直、高級食材は何が美味いのかさっぱり分からないため嫌いな部類に入る。 嫌いだからといって避けるわけにはいかず、俺はちまちまと口に運んだ。 ふと気付くと、正面に座っている忍足が俺を見ていた。 「どうしたの?」 「いや、何でもあらへん」 忍足はそう言って俺から目を逸らした。 その行動にチクリと胸が痛んだ気がする。 (・・・・・・何?) 俺はそのことについて深く考えないようにしようと決め、目の前の食事に集中した。 * * * * * * * * * * 「あ、幽霊屋敷だって。面白そう」 昼食を終え、再び園内を歩き始めると、突然滝が立ち止まった。 その視線の先にあるのは廃墟をモチーフとした大きな建物で、入口の看板には幽霊屋敷と書かれていた。 「えっ!?やめようぜ!!」 向日が青ざめた顔で後ずさる。 「幽霊屋敷?どんなのだ?」 跡部が不思議そうに建物を見上げた。 「え、もしかして跡部、お化け屋敷とか知らないの!?」 ジローが目をまん丸にして跡部を見た。 「お化け屋敷・・・・・・ああ、聞いたことはあるな」 「跡部がお化け屋敷初めてなら入らないとね」 何故か滝は楽しそうだ。 「えぇ!?俺はやだよ!!」 向日がギャーギャーと騒ぐ。 どうやら向日はこういうところは苦手らしい。 かく言う俺も正直苦手なのだが・・・・・・。 「どうせなら一人ずつ入ってみない?」 「さんせー!!面白そうだし〜」 滝の提案にジローが諸手を挙げて賛同する。 「え!?マジかよ!?」 「一人ずつ入るんは面白そうやけど、女の子に一人で入れっちゅうんは酷やないか?」 「あ、そっか。じゃあ、忍足、さんと一緒に入ってあげなよ」 「あーん?は俺と一緒に入るって決まってるだろ」 「いや、一人で平気だから・・・・・・」 跡部なんかと一緒に入るくらいなら一人で入った方がマシだ。 しかも、俺はきっと驚いたはずみで何かを殴るに決まっている。 跡部を殴ったなんてことになったら、周りがうるさいだろう。 「そう?じゃあ、順番決めようか」 「一番は俺様だ!!」 「はいはい!!俺二番〜!!」 跡部に続いてジローが主張する。 「宍戸と岳人はどうする?」 「滝先に入って良いぜ」 「そう?じゃあ、俺が三番目ね」 滝が嬉しそうに答える。 「お、俺、亮と一緒に入る」 向日が宍戸の背後に隠れて言う。 「えー、しょうがないなぁ。じゃあ、岳人と宍戸は俺の次で良い?」 「おう」 「そうなると、あとは忍足とさんだけど・・・・・・」 「私は最後で良いよ」 「俺が最後に入るわ」 俺と忍足の声が重なる。 「じゃあ、じゃんけんで決めたら?」 滝に言われ俺たちはじゃんけんをした。 一発で勝負が決まり、順番は跡部、ジロー、滝、向日・宍戸、俺、忍足となった。 「所要時間は三十分〜四十分だって。結構長いね」 滝は受付で人数分のチケットを購入して戻って来た。 「所々にリタイア用の出口があるみたいだけど、リタイアしちゃうと面白くないから、途中でリタイアした人はみんなにアイスをおごるってのはどう?」 「良いぜ」 滝の提案に跡部が頷く。 文句が出ないところを見ると、若干一名を除いてみんな賛成のようだ。 向日だけはぶるぶると無言で首を振っていたが、誰もそれに触れなかった。 「それで、一人が入ったら五分後に次の人、って流れで良い?集合場所は出口の外で」 「オッケー!」 ジローが張り切っている。 「それじゃ、まず、跡部から。よーいスタート!」 滝の合図で跡部が中に入った。 第三十六話← →第三十八話 戻る +あとがき+ お化け屋敷、検索してみたら一時間かかるやつあってビックリしました。 |