第五十一話
「明日、忍足くんの誕生日だって!!」 朝練の後、教室に向かう途中で女子トイレの前を通りかかると、中で女子が話している声が聞こえた。 “忍足”と“誕生日”という単語だけがやけに鮮明に聞こえ、俺は思わず足を止めた。 (明日なのか……) 俺の誕生日の時のことを思い出し、顔が熱くなる。 あの時もらったヘアピンは、家で大切に保管してある。 滝が言っていたように無意識のうちに触れてしまうため、自分の想いが忍足にばれてしまいそうだったから。 (どうしよう……) 岳人たちや跡部の時のように食べ物で簡単に済ませてしまうのは何となく嫌だった。 アイツらと忍足を同列に考えたくない。 そんなことを自然に考えてしまうくらい、俺にとって忍足は特別なのだ。 まさか、初恋相手が同性になるとは思いもしなかったが、一度認めてしまえば、もう開き直るしかない。 というか、周りに気付かれないようにすることで精いっぱいだから、それ以外のことを考える余裕がないのだ。 (どうしたら良いんだろう……) 何かを贈るにしても、忍足が何を好きなのかといった情報が俺には何もない。 普段、必要以上に関わり合いになることがない上に、俺が自分の想いを自覚してから、ますます疎遠になってしまっていた。 こういう時、女子の情報網が身近にあると良いのだが、俺には女子の友達が一人もいない。 だから、校内の噂話とか人気のある生徒の情報なんかは一つも耳に入ってこないのだ。 「さん?どうしたの?早く教室行かないとチャイム鳴っちゃうよ」 通りかかった滝に声をかけられ、ハッとする。 「あ、ありがとう」 滝に礼を言って、教室に向かった。 * * * * * 放課後になり、俺は用事があるからと言って部活を休んだ。 それを告げた時、跡部が何やら文句を言っていたが、無視して学校を出る。 駅前の大型ショッピングセンターに入り、あちこちの店を覗くが、なかなか良いと思える物を見つけられなかった。 「……ブックマーカー……栞?」 もう何件目かわからないが、小さな雑貨屋の前を通りかかったとき、商品棚に金属製の棒のような物を見つけた。 U字に曲がった先にはハートや鳥、猫など様々な飾りがついている。 そういえば、休み時間に忍足が本を読んでいる姿をよく見かけることを思い出した。 栞なら日常的に使ってもらえる可能性がある。 そう思い至り、俺は数あるブックマーカーを一つずつ手に取った。 飾りは短めのチェーンで本体につけられており、手に取るたびにチャラチャラと小さな音を立てる。 忍足には何がいいだろうか。 どうやら一点物らしく、色と形が同じ組み合わせの物は一つもなく、俺はじっくり見比べることにした。 「……猫?いや、鳥……あ、星?違うな……」 犬、音符、ト音記号、クローバー……三日月。 「あ、これ良いな……」 銀色の棒に銀色の三日月と白っぽい透明の小さな石がついた物を見つけ、そっと手に取った。 そして、もう一つ。 金色の棒に金色の三日月と濃いめのピンクの小さな石の組み合わせを見つける。 「……こっそり、お揃いにしちゃおうかな……」 忍足にも誰にも内緒で、色違いのお揃いのブックマーカーを使ってみたいと思ってしまった。 トクントクンと胸が高鳴る。 ピンクなんか嫌いだし、持つのも嫌だと思うのに、これだけは全く嫌だとは思わなかった。 だって、忍足とお揃いにすることができるのだから。 「……よし」 俺はゆっくりと深呼吸をしてから、レジに向かった。 第五十話← →第五十二話 戻る +あとがき+ 本編で書くか番外編で書くか迷った結果、こっちになりました。 主人公がだんだん乙女になっていく。。。 |