第五十二話



当日は朝から大騒ぎだった。
朝練に向かうと、跡部のときと同様にテニスコートの周りに女子たちがあふれていたのだ。
そして、朝練を終えると忍足はあっという間に女子たちに囲まれた。
俺は用意したプレゼントをいつ渡そうかと迷い、なかなか忍足に話しかけられなかった。
休み時間のたびにさりげなく忍足のクラスに近づいてみるが、女子たちが大勢いて近寄れない。


「聞いた?忍足くん、誰からもプレゼントを受け取る気ないんだって」


「え?それじゃ、今来てる人たち、みんな断られちゃうってこと?」


諦めて自分の教室に戻ろうとしたとき、不意にそんな会話が耳に飛び込んできた。
思わず振り返ると、話していた女子が訝しげに俺を見たため、俺は慌てて前を向いた。


「今朝、テニスコートまで渡しに行ったら、みんなからの物を受け取ると持って帰るの大変だからって断ってたの」


「へぇ〜、そうなんだ」


「せっかく用意したのに無駄になっちゃった」


「まぁ、しょうがないわよ」


「跡部様は受け取ってくれたのにね」


彼女たちはトイレに入ったため、それ以上の会話は聞こえなかった。


(……受け取ってもらえないのか……)


ブレザーのポケットに隠したプレゼントにポケットの上からそっと触れる。
直接触れているわけではないのに金属の固い感触がやけに冷たく感じた。



* * * * * 



放課後、いつも通りの練習が始まる。
俺は備品のチェックのふりをして部室に入った。
プレゼントを忍足のロッカーの中にこっそり入れておこうと思ったのだ。
面と向かって渡すと断られてしまうだろうから、ロッカーに入れておけば、持って帰ってはくれるのではないかと思った。
たとえ、捨てられてしまったとしても、目に留めてくれるだけでいい。
そう思ったのだが……


「…………はぁ……」


忍足のロッカーを開けようと取っ手に手をかけたが、カチンという冷たい音に阻まれた。
そう、鍵がかかっているのだ。


「だよなぁ……何で気づかなかったんだか……」


いくら部室とはいえ、私物が入ったロッカーが開けっ放しのはずがない。


「あれ??何やってんだ?」


急に背後から声をかけられ、俺は手に持っていたプレゼントをジャージの中に突っ込んだ。


「あ……岳人。何でもないよ」


振り返ると岳人がいて、首をかしげてこちらを見ていた。


「ふーん?まぁ、いいけど、絆創膏くれよ」


「あ、うん」


俺は棚から救急箱を出し、絆創膏を取り出した。


「サンキュ」


岳人が部室を出ていき、俺は大きく息を吐き出した。
心臓がバクバクしている。


「見られてねぇよな……?」


忍足のロッカーを開けようとしていたなんてばれたら大変だ。
俺はジャージの中からプレゼントを出し、少ししわになってしまった袋を指先でそっと撫でた。



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長くなってしまったので続きます。