第五十四話



「……ミスコン?」


十一月初め、明日から二日間行われる文化祭の準備の真っ最中に滝がうちのクラスにやってきて、わけのわからないことを言い出した。
滝はどうやら文化祭の実行委員になっているらしいのだが……。


「うん。文化祭二日目にグラウンドの特設ステージでやるのは知ってるよね?」


「まあ、うん……」


文化祭の目玉の一つであるミスター・ミスコンテストは各クラス最低一名は出場する決まりになっていて、うちのクラスからも立候補者がいた。
もちろん俺は知らん顔していたのだが……


「絶対にさんを出してくれっていう要望が多くて、是非ともさんに出てほしいなーって……さんがこういうの好きじゃないのはわかるんだけど、文化祭を盛り上げるためと思って協力してくれないかな?」


申し訳なさそうに言う滝に何と答えればいいかわからず、ひっそりとため息をついた。


「……どうしても出ないと駄目?」


俺の問いに、滝は困ったように眉を下げた。
俺としてはこれ以上目立つことをしたくないというのが本音だ。
だが、滝は多分、他の実行委員だけでなく、先輩とかいろんな男子生徒からせっつかれてここに来ているのだろう。
ここで俺が断ってしまったら、滝が針のむしろに立たされる。
先月の忍足の誕生日のとき、俺は滝に助けてもらったようなものだ。
あの時の恩を返すつもりで引き受けるべきだろう。


「……いいよ」


躊躇いながらも了承する。


「本当?ありがとう」


滝がホッとしたように笑う。


「衣装に関しては制服でってことだから、特別に何か用意する必要はないよ。当日、コンテスト開始十五分前には特設ステージ裏に来てほしい」


滝はそう言って、一枚のプリントを渡してきた。


「簡単で良いからここにある質問の答えを書いて、当日持って来て」


おそらくコンテストの紹介に使うのだろう。
誕生日や血液型、趣味などのパーソナルデータを記入するようになっていた。


「わかった」


プリントを受け取ると、滝は何度も礼を言って去っていった。



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+あとがき+

運動会すっ飛ばして文化祭です。