第五十五話



文化祭初日、俺は朝からウェイトレスの仕事に勤しんでいるのだが、ずっと客からの注目を浴びているため居心地が悪い。
あえて気づかないふりをしているが、携帯やデジカメなどのシャッター音が絶えず聞こえてくるのだ。
俺の写真をどうするつもりかわからないが、気味が悪いことに変わりはない。


(……また睨まれてる……)


クラスの女子や跡部目当てで来た女子たちがことあるごとに俺を睨みつけてくる。
その理由は、俺ばかりが男性客の注目を浴び、呼ばれるからだ。
恨むなら俺を強引にウェイトレスにした跡部たち男共を恨んでくれと思う。


ちゃん、オーダーお願い」


ここぞとばかりに俺を名前で呼ぶ男子たち。
それは同級生だけでなく先輩たちもいて、俺は必死で堪えていた。


(誰だよ、名札は下の名前だけにしようとか言い出した奴!!)


言い出した人間の名前も覚えていないが女子だったことは間違いない。


(早く休憩時間になってくれ……)


壁にかかっている時計を見上げ、休憩時間までまだ一時間以上あることに落胆する。


「……さん、休憩入っていいわよ」


その時、不機嫌そうな声でクラスの女子に言われた。
俺が邪魔だと言いたいのだろうが、跡部がいるためはっきり言えないようだ。


「わかった」


俺は先ほど受けたオーダーを調理担当の人間に告げ、調理スペース兼控室である衝立の向こうに入った。
名札とエプロンをはずし、制服を入れた紙袋を持ってそっと教室を出た。
トイレで制服に着替え、ウェイトレスの服を紙袋に入れて教室に戻る。


「あ、ちゃん!」


「ジローくん」


ドアを開けると、控室で着替えていたジローとばったり会った。
まずいタイミングで戻ってきてしまった。
今の俺は女子だからジローの着替えを見ているわけにはいかない。
慌てて紙袋を置き、廊下に出る。
幸い、他の生徒には見られておらず、ホッと息をついた。


ちゃん、どっか遊びに行こうよ」


着替えを済ませたジローが教室から出てきた。


「うん」


俺が頷くと、ジローはどこからか文化祭のパンフレットを取り出し、案内図を開いた。


「どこから行く?」


案内図をざっと見回し、忍足のクラスの模擬店を見つける。
忍足のクラスのたこ焼き屋はグラウンドにあるようだ。


「お腹すいたし、何か食べるものがあるところが良いな」


遠回しに告げてみる。


「そだねー。あ、じゃあ忍足のところ行こうよ」


「うん」


ジローの言葉に平静を装って頷きながら、内心ガッツポーズをした。



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文化祭始まりました。