第五十六話



昇降口に向かい、靴を履きかえて外に出る。
たこ焼き屋を探していると、長蛇の列を見つけた。
並んでいるのがほぼ女子ということは、おそらくこの列がたこ焼き屋だろう。


「すごい列だね……」


俺とジローは列の最後尾についた。
この後どこに行くかなど他愛もない話をしていても全然列は進まない。
段々、ジローが並ぶのに飽き始め、立ったままうつらうつらと舟をこぎ出した。


(マジかよ、ジローのバカ)


ジローの背を押して少しずつ前に進むが、ジローの足に力が入らなくなってきて、立ち止まる度に座り込んでしまう。
完全に寝入るのも時間の問題だろう。
身長も体重も同じくらいのジローを抱えて歩くのは至難の業だ。 途方に暮れて辺りを見渡すと、少し離れたところに見覚えのある後ろ姿を見つけた。


「樺地くん!!」


それは跡部の幼馴染らしい樺地崇弘だった。
俺たちの一学年下で、よくテニス部の練習を見学しに来ている。
今日は友達らしい二人もいて、三人が振り返った。


「樺地くん、ごめん。ちょっと来てくれる?」


「ウス」


手招きすると樺地たちは静かに近寄ってきた。


「たこ焼きおごるから、ジローくん支えるの手伝ってほしい」


「ウス」


樺地が頷き、ジローに肩を貸す。
その横で樺地の友人たちが戸惑った表情を浮かべていた。


「そっちの二人にもおごるね。せっかく遊んでるところ邪魔してごめん」


「え、いえ!!そんなの必要ありませんから」


「おごってくれると言うのなら別にかまいませんよ」


二人は同時に正反対のことを言った。


「そういや、名前は?私は


「あ、えと、俺は鳳長太郎です」


銀髪の方が答えながらにっこり微笑む。


「日吉若です」


茶髪の方は仏頂面だが、きちんと答えてくれた。


「鳳くんと日吉くんね。本当にありがとう」


「い、いいえ、大丈夫ですから、気にしないでください」


鳳が顔を真っ赤にして両手を振る。
何だか可愛らしいなと思い、クスリと笑ってしまった。
日吉がギロリと鋭い眼差しをこちらに向けたため、俺は慌てて笑いを引っ込めた。



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後輩トリオ出してみました。