第五十七話
それから俺たちは他愛のない話をして過ごし、ようやくたこ焼き屋の前にたどり着いた。 たこ焼きを焼いている忍足の姿を見てドキッとする。 「あれ、さん。それにジローは何や、後輩に担がれて寝とるんか」 忍足は手を動かしたまま顔を上げ、樺地に支えられたまま完全に寝ているジローの姿を見て笑う。 「……並んでるうちに寝ちゃって困ってたら、樺地くんたちが協力してくれて……。お礼におごる約束だから、五パックください」 「そうなんか。ほな、いっぱいおまけしたるなー」 忍足はそう言うと、たこ焼き器に生地を流し込み、タコを多めに入れて手早く焼き上げてくれた。 「ほな、熱いから気ぃつけてな」 レジ係の生徒からたこ焼きのパックを入れたビニール袋を差し出され、自分で受け取ってから鳳に渡す。 一パック二百円で五パックだから千円だな、と思いながら財布から千円札を取り出して渡すと、何故か忍足が横から手を出し、二百円のつり銭をくれた。 「え?」 レジ係の生徒と俺がきょとんとする。 「おまけしたる言うたやろ。一パックサービスや」 どうやら忍足のポケットマネーらしい。 「あ、ありがとう」 申し訳なく思いながらも二百円を受け取り、俺たちはたこ焼き屋を離れた。 グラウンドの隅にある芝生まで移動し、腰を下ろそうとすると、 「待ってください、先輩!!制服が汚れてしまいますよ」 鳳に引き留められた。 「え?」 気にしなくていいのに、と思っていたら、鳳はポケットからハンカチを出して地面に敷いた。 「どうぞ」 「え!?」 その上に座るよう促され、どこの紳士だ!?と面食らった。 「い、いいよ、そんなことしてくれなくて……」 「駄目です。この上に座ってください」 強い口調できっぱりと言われ、俺は樺地や日吉の顔を見た。 彼らもそれがさも当然という顔でうなずいている。 「…………わかった」 俺はいたたまれない気持ちでいっぱいになりながら、鳳のハンカチの上に腰を下ろした。 一応スカートであることを意識しながら横座りにする。 ジローを起こし、たこ焼きのパックを全員に配った。 「それじゃ、いただきます」 揃って手を合わせてたこ焼きを食べ始める。 「うわ、おいしい!」 あまりのうまさにビックリして言うと、 「ホントだ〜」 ジローも目を丸くしていた。 鳳や日吉、樺地の顔を見ると、やっぱり彼らもうなずいた。 「これが本場の味ってやつなんでしょうか……」 「正直侮ってましたね」 鳳と日吉が口々に感想を言う。 それは俺も感じていたことで、異論はない。 もしかすると、あの行列は忍足が目当てなだけじゃなく、このたこ焼きの評判もあったのかもしれない。 「あ、もうなくなっちゃいました。また食べたいですね」 全員があっというまに食べ終わり、残念な気持ちが湧き起こる。 だが、他の模擬店も見たいし、あの行列に並ぶ時間はない。 名残惜しく思いながら、空になったパックを片付けた。 「それじゃ、先輩、ごちそうさまでした」 「どういたしまして。こっちこそありがとう。またね」 樺地たち三人と別れ、俺とジローは別の模擬店に向かった。 第五十六話← →第五十八話 戻る +あとがき+ ちょたは絶対紳士だと思う。 ということで、こうなりました。 |