第五十八話
文化祭二日目。 午前中は昨日と変わらず忙しく過ぎていった。 午後になり俺はミスコンのため係を抜けようと、控え室スペースに入り、荷物を置いた場所に目を向け愕然とする。 何故なら制服を入れておいた紙袋がなくなっていたから。 「……何で」 辺りを見渡し、何かの陰に隠れてないか探すが見つからない。 「ちゃん、どうしたの?」 調理スペースにオーダーを伝えに来たジローが控え室を覗いてきた。 「……何でもない。時間だからもう行く」 俺はジローに告げると、エプロンと名札を付けたままそっと控え室を出た。 (……誰かに隠されたか?) 俺がミスコンに出ることは既に周知の事実となっているため、出場者の女子に妨害工作をされたと考えるのが妥当だろう。 「ねー、何だろうこれ?制服?何かすごいことになってる……」 何となく嫌な予感がして女子トイレに入ると、不意にそんな声が聞こえてきた。 他校の制服を着た女子がトイレの個室から出てきて、友人らしき女子に何かを見せているところだった。 その手に持っている物は見覚えのある紙袋。 「ちょっとごめん、見せて」 俺は慌てて駆け寄り紙袋を引ったくる。 中を覗くと、やはり見覚えのある制服が入っていて、水浸しになっていた。 しかもただの水じゃなくて、汚れた水だ。 「え?何?もしかしてあなたの?」 紙袋を見つけた方の女子がびっくりした顔で言う。 「……うん、私の。見つけてくれてありがとう」 怒りのあまり震える声を抑えて礼を言い、服の水を洗面台でしっかり絞ってからトイレを後にした。 (マジで許さねぇ……) 一矢報わねば気が済まない。 とはいえ、代わりの制服をどうやったら手に入れられるのか。 「……あ」 廊下の先に見回りをしているらしい榊の姿を見つけた。 俺は早足で榊に近づき、腕を引いて近くの空き教室に連れ込んだ。 「どうした?君から近づいてくるなんて珍しい。もうすぐが来るんじゃないのか」 現在の時刻は午後一時半を回ったところで、ミスコンは二時半からだが、父さんは他の展示物を見るために早めに来るらしい。 「父さんのことはどうでもいい。今すぐ制服用意できない?俺の制服、どっかの馬鹿が水浸しにしやがった」 「わかった。すぐに用意しよう。少し待っていなさい」 榊は俺の手から紙袋を取ると教室を出ていった。 椅子に座り、榊が戻ってくるのを待つが、なかなか戻ってこない。 苛立ちを抑えきれず、歯ぎしりをする。 三十分以上経ったとき、ようやく榊が戻ってきた。 「遅い!!」 「すまない。に見つかってしまって……」 「父さん?いるの、今?」 父さんは俺が女子から虐めを受けていることを知らないのだ。 もし、制服を水浸しにされたなんて父さんに知られたら何をするかわかったもんじゃない。 「いや、君を探していたようだったから、ミスコンのためにグラウンドにいるんじゃないかと誤魔化しておいた」 「あ、そ……で、代わりの制服は?」 「ここに。サイズは合っていると思うが……」 榊は大きな箱を机の上に置いた。 それは入学前に制服屋から届いたものと同じ箱だった。 「何?わざわざ買ってきたの?」 「ああ。既製品だから一般的なサイズだが、君なら着られるだろう」 「ふーん……」 箱を開け、制服を取り出す。 「汚れた制服はクリーニングに出しておいたから、帰る前に取りに来なさい」 榊はそう言うと、教室を出ていった。 制服に着替え、来ていた服を箱に入れる。 その箱を教室に置きに戻ってからグラウンドに向かった。 第五十七話← →第五十九話 戻る +あとがき+ 次はミスコンですが…… どういうことやるのか知らないまま書きました(汗 何かおかしくてもスルーしてくださいね。 |