第五十九話
グラウンドの特設ステージに向かうと観客が大勢いた。 「さん!こっち」 集合時間ギリギリになってしまい、慌てた様子の滝に呼ばれた。 そちらへ行くと、持ってくるように言われていたプリントを出してくれと言われた。 そういえばそうだった、と焦る。 プリントは一応書いてあったが、制服と一緒に水浸しになってしまった。 「ごめん、ちょっと忘れちゃって……」 「え?そうなの?ちょっと待って、確か予備があったから……」 滝がファイルを漁って予備のプリントを取り出した。 機材が置かれている机を借りてプリントに記入していく。 全ての項目を埋め、滝に渡す。 「ありがとう。それじゃ、出る順番に並んでて」 「うん」 ナンバープレートを受け取り、胸につけながら列に並ぶ。 すると、女子の何人かが俺の方をチラチラ見ながら耳打ちをしあっていた。 もしかして俺の制服を水浸しにしたのは彼女たちだろうか。 じっと見つめていると、女子たちはすっと目を逸らす。 その行動で確信を持った。 (あいつらか……) 具体的に何をするかは決めていなかったが、少し考えてみようと思う。 とはいえ、俺の性格的に嫌がらせをするのは好きではなく、正々堂々と勝負する方が好きなため、何も思いつかない。 これが父さんとか精市相手だったらいろいろ思い浮かぶのだが……。 (まあいいか……とりあえず、あいつらに負けなければいい) そう結論付けて、俺は順番を待った。 男女一人ずつ番号順にペアになりステージに上がって、事前に書いたアンケートを元に司会者が紹介するという方式を取るようだ。 俺が一緒に出るペアは残念なことに跡部だった。 跡部の後ろには忍足が並んでいて、あと一つ後ろだったら……と思ってしまう。 だが、逆に跡部でよかったのかもしれない。 もし忍足と一緒に出ることになったら緊張のあまり何か粗相をしてしまいそうだから。 「、出番だぞ」 ため息をつきそうになって堪えていると跡部に呼ばれた。 ステージの階段を登るとき、跡部が右手を差し出してきたため、覚悟を決めて手を握った。 だが、無意識のうちに後ろにいる忍足を見てしまって、慌てて前を向き直した。 『エントリーナンバー7』 司会者が俺たちの番号を告げ、俺と跡部はステージに出た。 途端に女子たちの黄色い声や激しいブーイングが上がる。 『一年A組、跡部景吾くん。誕生日は十月四日、趣味はフライフィッシング、読書……』 司会者はその声に負けじと跡部のデータを紹介する。 『続いて、一年A組、さん』 次に俺の番になると女子の声がブーイングに変わり、男子の歓喜の声が上がった。 『誕生日は八月十八日、趣味は読書。特技は料理と、空手(黒帯)……』 司会者が戸惑った様子でカッコの中まで読み上げ、女子のブーイングが止む。 空手のことを書くつもりはなかったが、試しに書いてみることにした。 これで女子が下手に俺を怒らせてはいけないと判断してくれればいいと思ったのだ。 案の定、女子は絶句していて、俺は満足してニッコリと微笑みながら観客たちを見渡した。 「ちゃん、かわい〜!!!」 ジローの声がする。 どこにいるのかと見てみると、ジローは後ろの方で大きく手を振りながらピョンピョン飛び跳ねていた。 思わず笑ってしまうと、男子たちが感嘆のため息を漏らした。 『それでは、次に参ります。エントリーナンバー8』 次の番号に変わり、俺たちはステージを降りた。 第五十八話← →第六十話 戻る +あとがき+ 思った以上に長くなってしまったのでまだ続きます。 |