第六十話



全ての紹介が終わり、全員でステージに上がると投票が始まった。
投票方法はそれぞれ男女一人ずつ選ぶことになっている。
俺は多分女子の票はないだろうから不利な気もするが、あの卑劣な奴らに負けなければそれでいい。


『さて、結果の集計が終わったようです』


司会者の元へ集計結果が渡されると、会場中に緊張が走った。


『まずミスターコンテスト、今回の優勝者は……あ、何と!!二人います!!』


司会者の言葉に、辺りがざわつく。


『エントリーナンバー7、跡部景吾くん。そして、エントリーナンバー8、忍足侑士くんです!!』


女子の歓喜の声が上がる。
どちらかだろうとは思っていたが、まさか二人ともだとは驚いた。


『続いて、ミスコンテスト、今回の優勝者は……』


司会者はもったいつけたように間を作った。


『…………エントリーナンバー7、さん!!』


「やったぁ!!ちゃん、おめでと〜!!」


いつの間にか最前列まで来ていたジローが騒ぐ。


『それでは、優勝者の三名にはお色直しをしていただきます』


「……は?」


わけがわからないまま実行委員に新館まで連れていかれる。
優勝者を表彰して終わるものだとばかり思っていた。


「中に入って」


実行委員の女が不機嫌そうに言い、俺を女子更衣室に押し込んだ。
隣の男子更衣室に跡部と忍足が入っていったようだ。
実行委員は中に入ってこず、ピシャリと閉じられたドアのすりガラスの向こうに人影が見える。


「あれ?くんじゃない?」


「え?」


名前を呼ばれて振り返ると、そこには俺がいつも行っているヘアサロンのスタイリストがいた。


「どうしたの?その格好……」


スタイリストは目をパチクリさせて俺を見ている。
驚いたのはこちらの方だ。
何故、彼女がここにいるのだろう。


「もしかして、ミスコンの優勝者ってくん?」


「あ、あの!もう少し声のトーン落としてください」


外に他の生徒がいる以上、くんくんと連呼されるのは困る。


「ちょっと訳あって女として学校通ってるんで……」


ドアの向こうの実行委員に聞かれていないかヒヤヒヤしながら小声で説明をした。


「そうなんだ。まあいいわ。くんなら似合うと思うし」


スタイリストは声のトーンを落としてニッコリ微笑んだ。
その笑顔に何やら嫌な予感がする。


「とりあえず、その制服脱いでね」


スタイリストに言われ、俺は渋々制服を脱いだ。



* * * * *



着替えを済ませ、悔しそうな表情の実行委員に連れられてグラウンドへ戻る。
いつの間にか昇降口と特設ステージの間にトンネルのような囲いが設置されていて、外の様子が全くわからなくなっていた。
跡部と忍足はもうステージ裏にいて、その二人の格好を見てやっぱりなと思う。


「俺様の思った通り、にぴったりだ」


俺を見た跡部がしたり顔で言った。
まさかと思うが、この衣装を用意したのは跡部だろうか。
そうだとしたらかなり悪趣味だ。


『それでは、三人のお色直しが済んだようなので、ステージに上がって来てもらいましょう』


司会者の声に観客が盛り上がる。
跡部と忍足が先に階段を上がり、二人同時に半身を翻すと俺の方へと手を差し出した。
右手を跡部と、左手を忍足とつなぐ。
ゆっくりと階段を登り、ステージに出ると大歓声が上がった。


『…………な、何ということでしょう。あまりにも素敵すぎて言葉を失ってしまいました』


さっきからずっと気になっていたのだが、この司会者のノリは何なのだろう。
まるでバラエティ番組か何かのMCのようだ。


『さて、さんは真ん中の椅子に座ってください』


司会者に言われ、ステージの真ん中に置かれている椅子に座る。
この椅子はどこから持ってきたのかわからないがアンティーク調の高そうな椅子だ。
椅子の両サイドにいる跡部と忍足が俺の肩に片手を置き、ピンと背筋を伸ばして立って前を見据えると悲鳴のような歓声が上がった。


『それでは、まるで童話に出てくる王子様とお姫様のようなお三方に盛大な拍手をお送りください』


司会者が促すと、会場中に大きな拍手が響き渡った。
その言葉のとおり、跡部と忍足は王子様のような格好をしていて、俺はお姫様のようになっている。
真っ白なタキシードを着た二人と真っ白なドレスを着た俺。
どこからどう見ても結婚式のようだろう。
恥ずかしくて今すぐこの場から逃げてやりたい。


『この後、文化祭が終わるまで彼らにはこのままでいてもらいます。写真撮影・ビデオ撮影は本人の許可を得た方のみでお願いします。また、カメラクラブにより写真販売を行う予定です。そちらの収益はすべて福祉施設への寄付金とさせていただきますので、せひご利用ください。繰り返します……』


司会者が何度かその言葉を繰り返し、ミスター・ミスコンテストは幕を閉じた。



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+あとがき+

タキシードとウェディングドレスを着せたかっただけです。
本当は跡部か忍足のどちらかにするつもりだったんですけどね…