第六十七話



「……あれ?」


終業式後のホームルームがを終え、部活へ行こうとカバンを手に取り、ふと違和感を覚えた。
きちんと閉めてあったはずのカバンのファスナーが少し開いている。


「おかしいな……」


自分の記憶違いかもしれないと思い、そのままカバンを持って教室を出た。
しかし、どうしても違和感は拭えず、歩きながらカバンを開けた。


「何ともない、か……」


カバンの中身は、いつもと変わらない持ち物と、先ほどのホームルームでもらった通知票が入っているだけ。
ガサガサとカバンの中をかき回し、異変はないと確認する。
最後に、内ポケットに入っている小さな巾着袋を取り出した。


「ん?」


その巾着袋の手触りが何となくおかしい。


「…………え?」


嫌な予感がして巾着の口を開き、中を見て愕然とした。


「なん、で……」


巾着の中身をてのひらに取り出す。
それは小さなロケットペンダントだった”もの。
チェーンが切れ、ロケット部分がひしゃげている。
さらに中の写真もズタズタに切り裂かれていた。


「何で……」


写真に写っていたのは、死んだ母さんと幼いころの俺。
母さんが病に倒れる三日前に撮った最後の写真だ。


「誰が、こんな……」


唇がわなわなと震える。
それは怒りなのか哀しみなのか、俺には分からない。


「クスッ……」


廊下を行き交う生徒たちの喧騒の合間、かすかに聞こえた女の笑い声。
声のした方を振り返ると、一年A組の教室のドアの陰に、クラスメートの女子が数人たむろして、こちらを見て笑っていた。


(あいつら……)


その顔に見覚えはあった。
入学して間もないころ、俺に絡んできた女子のグループーー跡部のファンーーだ。
最近はおとなしくなっていたと思ったのだが、冬休み直前にこんなことをするとは思いもしなかった。
俺が気に入らないなら俺に直接攻撃してこればいいじゃないか。
こんな風に人の大切なものに手を出すなんて卑怯だ。


さん?」


一言、文句を言ってやろうと教室の方へ戻りかけたところで、背後から声をかけられた。


「お、忍足、くん……」


振り向かなくてもわかる関西弁に、俺は怒りを忘れて動揺した。


「はよ部室行かないと、昼飯の時間なくなるで……それ、どないしたん?」


忍足は俺のてのひらに握られている壊れたロケットペンダントに気付いた。
思わず教室の方を見ると、女子たちが気まずげに顔を見合わせ、教室へと引っ込んでいった。


「何でもない、よ。ちょっと落として踏んじゃっただけ」


女子たちをかばうつもりはないが、女子から虐められていることを忍足に知られたくなかった。


「……そうなん?」


忍足は何故か一瞬、視線を俺の教室に向けた後、俺に微笑みかけた。


「気をつけなあかんよ?ほな、部室、一緒に行こか」


「う、うん」


思いがけない誘いの言葉に心臓が高鳴る。
一瞬で顔が熱くなり、忍足の顔を見れなくなった。
忍足の他愛ない話に相槌を打ちながらも、俺の頭の中は壊れたロケットペンダントのことでいっぱいだった。



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次はクリスマスパーティーです。