第六十八話



待ちに待った(?)クリスマスイブの日は、部の練習はなくそのまま朝からパーティーが始まった。
場所は男子テニス部部室。
跡部家の使用人たちが用意した料理がズラリと並ぶ中、やはり跡部が用意したパーティー用衣装に身を包んだテニス部員が、それぞれ料理を食べたり歓談したりと楽しく過ごしている。
俺は慣れないドレスに四苦八苦しながら、ジローたちの会話を聞いていた。


「やっぱ、スゲーな跡部ん家」


「ああ。この服もくれるって言うしな」


いろんな料理を食べながら感心する岳人に亮が同意する。
跡部が用意したパーティー用衣装はそれぞれにプレゼントすると言われたが、こんなの貰っても着る機会がないのに、と俺は呆れた。


(……あ、忍足)


周りを見渡し、端の方で滝と話している忍足の姿を見つけてドキッとする。
遠目でも高級なフォーマルスーツが似合っているのがよくわかる。


!聞いてんのか?」


忍足に見とれていると突然、目の前に岳人の顔が現れた。


「ご、ごめん。ちょっと考え事してた。何だった?」


「ったく、これ食ってみろって言ったんだよ」


そう言って岳人が差し出した皿には何かのタレがかかったから揚げがのっていた。


「このから揚げのタレ、めちゃくちゃ美味いぜ」


「そうなんだ」


皿を受け取り、から揚げを食べてみる。
から揚げにかかっていたタレはどうやら甘酢あんのようだ。


「美味しい」


並べられた料理は高級フレンチばかりだと思っていたが、よく見ると中華や和食もあった。
高級フレンチは嫌いだが中華は好きなので、このから揚げも好きな味だ。


「だろ?あと、こっちの……」


岳人が嬉しそうにいろんな料理を皿にのせてくれる。


「ちょ、岳人、待って。そんなに食べれないよ」


どんどんのせられる料理に若干引きながら制止する。


「そうか?じゃあ、他に食べたいのあったら言えよな。取ってきてやるから」


「……うん、ありがとう」


最近、やたらと俺の世話を焼こうとする岳人に、俺はどう対応したらいいかわからなくなっていた。
友達として付き合う分には楽しくて良いのだが、そこに恋愛感情があるとわかってしまったら、岳人と友達でいるのは良くないのではないかと思うようになった。
だからと言って、友達をやめるなんて言えないし、突き放すこともできない。


(困ったな……)


そ知らぬふりを続けるのにも限度がある。
いっそのこと、岳人が俺に告白をしてきてくれれば、面と向かって断ることができるのに……そう思った。
しかし、いざ、その場面になると何も言えなくなるような気もしている。
この関係を壊したくない、と頭のどこかで思っているから……。



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