第七十一話
映画は純愛物だった。 恋愛映画に興味はなかったが、忍足が原作小説はどんな話だとか、この監督の演出は面白いとか、いろいろ教えてくれたので、それなりに楽しむことができた。 何より、忍足が楽しんでいるのが嬉しかった。 「ここもアカンかー」 映画の後、昼食にしようと、店を探すがどこも混雑しており、入れそうになかった。 クリスマスというイベントのせいだろう。 「……ここから少し歩いたところに、知り合いが働いてるカフェがあるんだけど、どうかな?行けば多分、席空けてくれると思う」 「そうなん?ほな、そこにしよか」 それから歩いて十五分ほどの場所にある喫茶店に入った。 「いらっしゃいませ〜。あら、ちゃん?こんにちは」 店内はカウンター席以外はほぼ埋まっており、客がいなくなった奥のテーブルを片付けていたウェイトレス――優紀ちゃん――が振り返った。 「こんにちは、優紀ちゃん。席空いてる?」 「ちょっと待ってね、ここ、すぐ片付けるから」 「うん、ありがとう」 優紀ちゃんがテーブルを片付けるのを待ち、席に着く。 「今日のランチはちゃんの好きなチーズハンバーグよ」 水とおしぼりを持ってきた優紀ちゃんが笑顔で教えてくれる。 「えっと、じゃあ、私はそれにする」 「ほな、俺も同じで」 「かしこまりました。ふふっ」 何だか優紀ちゃんがニヤニヤしている気がする。 俺と忍足の様子をこっそり観察しているような、そんな感じだ。 「……………………」 優紀ちゃんに見られているとわかった瞬間、料理が来るまでの間、何を話したら良いのかわからなくなった。 「さんは、普段、映画とか観るん?」 そわそわと落ち着かない俺に気づいたのか、忍足の方から話を振ってきた。 「えっ……あ、あんまり観ないかな……観てもアクション物とかスポーツ系、だと思う……」 言っていて、普通の女が観るものではないことに気づいたが、途中で変えるわけにはいかず、曖昧になった。 「う、ウチは、父子家庭だし、従弟とか幼馴染みとか周りに男しかいなくて……」 慌てて言い繕う。 「ちっともおかしくないと思うで。俺かて男の癖にラブストーリーなんて、とか言われることあるけど、そんなんいちいち気にしとったら何も観れんようになるし、何言われても気にせんようにしとる。自分が面白いと思うものを観るのは何も悪いことやないからな」 「そっか、そうだね」 俺に恥をかかせないように、という気遣いがよくわかる。 「今日の映画は、どうやった?」 「えっ?あ、面白かったよ。主人公たちがお互いの気持ちに気づくのが遅くてもどかしかったけど……」 運命の相手をテーマにしたラブストーリーで、主人公の二人はそれぞれが互いを想っていながらも自分の想いになかなか気づかず、すれ違ってばかりいて、他の相手と付き合っては別れてを繰り返していた。 最終的には自分の想いに気付き、互いの手を取るために自分の立場とか持ち物をすべて捨てて幸せになるという内容だった。 「あんな風に自分の何もかもを捨てられるような恋って想像もつかないよ……」 今の俺には、到底真似できない。 嘘がバレるのが怖くて、さらに嘘を重ねて隠すしかできないから。 「……さん、あのな……」 「はい、二人ともお待たせ〜」 忍足が何かを言いかけたところで、優紀ちゃんが料理を運んできた。 「ごゆっくりどうぞ〜」 優紀ちゃんが離れていき、俺は再び忍足を見たが、忍足は困ったような笑みを浮かべるだけで、話す気をなくしたようだった。 何を話そうとしていたのか気になるが、忍足に話す気がないのなら追求するわけにはいかない。 そう思って、聞くのをやめた。 第七十話← →第七十二話 戻る +あとがき+ 映画の内容、作ったんですが長くなってしまうので削りました; |